薪ストーブの魅力は、じんわりと体の芯まで届くような温もりです。
炎が揺らぎ、ぱちぱちと薪がはぜ、シュウシュウと空気を吸い込む音。
私たちの遠いご先祖が「火」を手に入れて以来、ずっと感じ続けてきた暖かさを、体全部で受け止めることができます。
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薪ストーブを使う人は、3回暖まると言います。
最初は木を伐り出して運ぶとき、
2度目は丸太を割って積むとき、
そして最後に薪を燃やすとき…。
そう、薪ストーブは、森の恵みを
最もシンプルに受け止める仕組みなのです。 |
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写真協力:煙突の横山 |
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さらに薪は、人を暖めてくれるだけではなく、順繰りに受け渡しされる地元のエネルギー資源ですから、地域全体を動かしてくれます。
4つの効用が考えられます。
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1つは、財布に優しい。全部人任せにすると灯油より高くなることもありますが、薪を割って積む作業を自分でやれば、それだけ経費を圧縮できます。
2つめは、地球に優しい。数億年かけて生成された石油などの化石燃料と違い、樹木は数十年という人と同じ時間単位で再生が可能です。燃やしてできたCO2は、人の努力で再び森の樹木として再蓄積することができます。
3つめは、森に優しい。森を破壊するような伐採は論外ですが、日本には手入れが必要な人工林や混み合った天然二次林が多くあります。それらを間伐した一部が薪として有効利用されれば、森を手入れする費用が生み出されます。
4つめは、地域に優しい。石油代金の多くははるか遠くの産油国に行ってしまいますが、薪の原木費用は、森で働く人の給料や手入れの経費として、ほぼ全額が地元に回ります。暖房経費は「アラブの王様より、地元の森と木こりに払おう」
なのです。 |
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「もりねっと」は森の恵みを活かし、森とそこで働く人を元気にするため、「薪」を手がかりにした地域のエネルギー循環をつくりたいと考えています。
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実際には、薪ストーブがいいな、使いたいと思っても、いくつものハードルがあります。
ストーブ選びに始まり、自宅の設置場所や煙突の立て方、薪の入手や割って積む場所の確保、チェンソーや斧の安全な使い方などなど。
そうした課題を、「もりねっと」は少しずつ解決し、薪の循環を広めていきたいと考えています。
その方策の一つが、薪ヤードを共同利用する「薪クラブ」の仕組みです。これは、ネックとなりがちな原木入手を共同手配し、自宅でチェンソーを使うことが難しかったり、薪置き場がない人のために、作業・乾燥ができる薪ヤードを用意します。
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写真協力:煙突の横山 |
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会員登録をすると、原木の供給を受け、共用の玉切り・薪割りスペースと、個人専用の乾燥棚が使えます。定期的に間伐体験や技術講習会が開かれ、「もりねっと」のスタッフや会員同士で、ストーブや道具類の使い方・選び方、安全の心得などの情報も得られます。
アパート暮らしの人には、薪は無理でも、ペレットストーブという選択肢があり、大きな家は施設なら、薪ボイラーという方法もあります。
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原木と薪のリニアな関係!? |
薪ストーブとチェンソー−選び方と手入れ |
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■原木と薪のリニアな関係!? |
薪ヤード予定地の一つ、旭川市東鷹栖の八線ヤードで、広葉樹原木と割った薪の換算量を確認する作業をしました。
太さがいろいろで曲がりもある原木から、どれくらいの薪ができるのか。基礎データをとるため、各辺が1mの木の枠(1立方m)を作り、割った薪をぎっしりと詰め込みました。これで「薪1立方m」に必要な原木量や重さが分かります。
今回は太さ10センチ弱から25センチ程度のミズナラの原木を使いましたが、パルプ用材として標準的な長さ2.4mの原木を積んだ容積で1.2立方mが、薪1立方mになりました。原木は曲がったりして隙間があるため、割ってぎっしり積んだ薪より見かけの体積が2割大きい、ということです。 |
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つまり、例えば薪5立方mを得るためには、積んだ容積6立方mの原木が必要、という計算になります。
原木を割ると水分がどんどん抜け、重さが軽くなります。含水率と重量の関係も、これから測定していきます。
作業はあいにくの吹雪模様の中、4人のスタッフが玉切り、薪割り、積み上げ、計測を行いました。遠目にはどこかの強制労働のようですが、実は薪割り作業がけっこう楽しく、1立方の薪を前にした笑顔をご覧下さい。
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今年春に伐採されたナラの木ですが、割るとみずみずしい木肌が現れ、特有の香りも立ち上りました。来年の今ごろには、最高の薪になるでしょう。
終了後は休憩室で薪ストーブを囲み、熱いお茶を飲んで、「割るとき暖まって、燃やして暖まる」を実感しました。 |
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■薪ストーブとチェンソー−選び方と手入れ |
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■機種の選び方 |
薪ストーブを使うとき、チェンソーは必需品です。割った薪を購入するなら不要ですが、とても費用がかかるし、だいいち、「薪を割る」楽しみが失せてしまいます。薪ストーブは「木を伐り出すとき、割るとき、火を焚くときの3回暖まる」と言われているのです。
薪ストーブユーザーにどんなチェンソーが向いているのか。実は高価な「プロ向けチェンソー」は不要だと考えています。ただし、チェンソーは手入れや修理をしながら使う道具なので、「プロのアドバイス」は必須です。ですから、「プロの店で買う、アマチュア向けのやや大きめのチェンソー」が最適ではないかと思います。
もちろん、住宅街などで騒音の出るエンジン機が使えず、電動チェンソーを使う人もいるでしょう。振動が少なく排ガスも出ません。でも玉切り作業は、チェンソーにとってはかなり厳しい連続作業なので、「パワーに余裕」があると機械の寿命も延びるのです。
薪割り用チェンソーは、主に水平に置かれた丸太を40センチ前後の長さに「玉切り」するのが主用途です。樹種は主に広葉樹で、ミズナラやイタヤは特に堅い木です。太さは細い木から中には直径60センチ余りの太い木もあります。そう考えると、ある程度パワーやバーの長さに余裕があり、そのかわり、そんな複雑な動きはしないので、大きさ重さは超軽量でなくてもよい、となります。単純な仕事を着実にこなしてくれる力持ちマシン、といいうイメージです。
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■プロとアマの違い |
これに対し、「プロ用機」の使われ方は異なります。山林での伐倒に使うので、水平や斜めなど、素早く正確にいろんな切り込み方をします。しかも、立木を倒す時間よりも、倒した木の枝を切り払うほうが時間も労力もかかります。つまり、空中で三次元に振り回すことが多いので、パワーと軽さの両立が求められるのです。太い広葉樹には大型の機種が選ばれますが、圧倒的に多い人工林の間伐では、排気量40cc前後の小型機がよく使われます。ただ小型でも、軽量化と高速回転のため、軽合金や精度の高い部品が使われるので、コストがかかっているのです。これがカービング(チェンソー彫刻)になると、さらに軽量高速回転のマシンが使われ、バーの形も違ってきます。
多くのメーカーが「プロ向け」と「カジュアル」の2系統を作っています。「カジュアル」は高価な部品を使わないので、同じ排気量でもやや重く、安いのです。あまり伐倒をせず、玉切りが主用途なら、軽量高性能なプロ用機よりも、50-60ccくらいの排気量があるカジュアル中型機が、安くてパワーがあるので向いているといえます。プロ用中型機の中古というのも、探せば選択肢になります。
もちろん安価なカジュアル小型機も十分使えます。エンジンスタートやバーの調整が簡単になる機種もあります。最低限、緊急停止ができる安全ストッパー付きの機首を選んで下さい。
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■専門店で購入しよう |
機種選び以上に大事なのは、店選びです。最初は特に、ホームセンターや通信販売よりも、修理やアドバイスが可能な専門店を選びましょう。少し代金が割高でも、安全で長持ちする使い方を教えてもらえます。
チェンソーは小さなボディにエンジンや回転部分を詰め込んでいるので、消耗部品の交換や修理、清掃が不可欠です。車のように、次の車検まで手入れ不要で走る、ということはありません。ユーザーが毎日のように点検と手入れを行い、時どき店に持ちこむ、というメンテナンスが普通なのです。
トラブル例では「バーとチェーンが合っていなかったので、燃費が悪く、異常摩耗で危険だった」「チェーンオイルの入れ方を指導されず、潤滑不足でバーが焼けた」「通販で買った並行輸入品(非正規品)の部品がなく、修理を断られた」「使わないときの保存方法が悪く、翌シーズンに使えなかった」「見よう見まねで危険な始動方法をしていた」などなど。マニュアルに説明されていることも多いのですが、ちゃんとした専門店では、丁寧に教えてくれることばかりです。
また、マシンやチェーンの状態を見れば、手入れの状況や使い方の問題点がある程度分かります。事故や故障が起きる前に、アドバイスしてもらえる可能性があるのです。
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■メーカーはいろいろ |
よく「どのメーカーが良いか」と聞かれますが、海外ブランドはもちろん、国産メーカーもいい製品を出しています。価格もそれほど変わりません。あえて目安を言えば、「プロ用機を作っているメーカーを選ぶ」でしょうか。専門店で扱っているメーカーならば、安価でも最低限の水準はクリアしていると考えられます。危険性を秘めている機械ですから、極端に安かったり、チェンブレーキ(緊急停止装置)が省かれているような機種は避けましょう。
メーカによっては、専門店以外での販売を認めていなかったり、修理技術者の研修や資格制度を設けている社もあります。「売ったら終わり」ではないのが、チェンソーなのです。
もちろん、メーカーによって微妙な使い勝手やポリシーの差はあります。しかし、性能や機能、使えるバーサイズやチェーンはほとんど同じです。多くは好みや感触の問題なので、使い慣れている人に尋ねてみましょう。持ったバランスやエンジン回転、かかりやすさ、メンテナンスの楽さ、スイッチやキャップの違いなど、人それぞれの感覚があるのです。
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○●チェンソーの手入れ |
手入れの基本は「目立て」と「清掃」です。目立てがよく、切れ味のいいチェンソーは、疲れが少なく、おかしな反動も減って安全です。燃料の補給ごとに簡単なヤスリがけを行い、1日の終わりにしっかり目立てするのがベストです。目立ては奥が深いので、詳しくは後ほど。
清掃はできれば毎日、少なくとも数日ごとにカバーを外してみましょう。
チェーン駆動側のカバーをとり、バーとチェーンをはずして鋸屑を払い落とします。オイルと木くずが混じって、すごい状態です。特に生分解性オイルを使う人は、まめに清掃しないと、オイルか固まって厄介です。すぐ汚れますから、清掃はぴかぴかにしなくてもいい。大まかな木くずを取り除き、回転部分の状態を確かめます。チェーンを駆動するスプロケットの傷や摩耗を見ておきましょう。
バーも溝のゴミを取り除きながら、ゆがみや曲がり、溝の変形などをバーの前後から見通したり、手触りで確かめます。先端のスプロケット(歯車)にグリス注入が必要な機種もあります。外したチェーンも、足(バーに入っている部分)の摩耗や変形を見ておきましょう。使用中に外れた後は、たいてい足が変形しています。
カバー側にはチェンブレーキがついています。大事な安全装置ですから作動を確認し、動きの邪魔になる木くずを取り除きます。エアコンプレッサーがあると、とっても助かります。
チェーン回りのほか、エアフィルターも清掃が必要です。ここが詰まるとパワーが落ち、最悪の場合、エンジンが焼けます。破れているとキャブレターにゴミが入ってしまいます。ブラシやコンプレッサーでゴミを取り除きます。フィルターを外すときは、必ずチョークを引きましょう。キャブレターの入り口がチョーク弁で閉じられるので、ゴミの混入を防げます。
定期点検では、プラグやスターター、キャブレター、オイルや燃料のフィルター、バーへのオイルポンプなどが対象です。やや複雑なので、説明書を読み、時には専門店に相談しましょう。プラグとスターターのヒモは、小さなモノなので、予備を持つのもいいでしょう。 |